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便利さの裏にある“人間らしさ”の喪失 ―ロボットとAI時代をどう生きるか

2025年10月17日 | column_wood

ロボットペットに感じた違和感

1985年、当時勤めていた施設に、初めてパソコンの寄贈があり、私は積極的にパソコンを関わり始めた。
この頃から、障害者の作業業務にもどんどんパソコン作業を取り入れていたこともあり、私は同年代の人に比べるとパソコンとの生活に慣れていた方だろう。

いわゆる「最新テクノロジー」に違和感を感じていなかったのだ。

そんな私だが、近年の業務に携わる中で、今もなお心に残る衝撃的な光景がある。

それは、都会のマンションの一室。
いつも通り、相談支援に訪れたお年寄りのお宅に伺った時の話。
ペットが飼えない環境の中、名前をつけられセーターまで着せられた「ロボット犬」が撫でられていたのだ。
 その光景を見たとき、正直ゾッとした。
 ペット飼育不可のマンションが多い中、ひとり暮らしのパートナーとして、ロボット(機械)が慰めになっている。
 人の温もりが機械に置き換わる時代が、すぐそこまで来ていると感じたからだ。
 そして、人と機械の関係が変わり始めた象徴のようにも思えた。
「都会に暮らしていると、寂しさでこうなってしまうのか…?」
私は強く危機感を感じ、田舎に移住するきっかけの一つとなり、今は猫3匹と暮らしている。

しかし、世間では65歳を過ぎると保護猫を譲ってもらえない。
どんどん年老いていく高齢の人に、猫のお世話が務まる確証がないからだろう。
こういった世間の考え方を知り、私はふとマンションで見たあの光景を思い出しながら、こう感じた。
「猫が可哀そうな思いをするくらいなら、私もロボットを飼うべきなのかもしれない…。」

技術が支える暮らしと、頼りすぎる怖さ

 現代は、高齢者や障害者であろうとスマホがなければ暮らせない時代になった。
大きなきっかけは世界的に大流行したコロナ感染症だろう。
1類から5類になった際は、個人がコロナの申請をしなければならず、QRコードをスマホで読み取り、自身で申請しなければならなくなり、使い方がわからない人たちはとても困惑したのだ。
現在は、高齢者や障害のある方に操作を教えるボランティアを育成するため「スマホサポーター養成講座」というものもある。
それほど ❝スマホがなければ暮らせない時代❞の現実を実感している。

そして、最近はさらに「AI」が普及し始めた。
AIは使い方によっては、とても便利だ。
精神的に病んでいる人が、夜中に私に電話をかけてくるときがあるが、対応ができない時はChatGPTと会話をしてもらっている。
ChatGPTのメリットである「否定しない」会話を上手く活用すれば、リアルな人間関係が築きにくい人にとっては心地よいと感じられるのだ。

 けれども、心を許す相手が機械だけになると、人と人との関係はどこへ向かうのだろう。
海外では、息子の自殺計画をチャットGPTが共感したとして、両親が提訴した出来事も報じられている。

 便利さの陰で、会話の温度や沈黙の間合いといった、人にしか持てない感覚が少しずつ薄れているように思う。

 メール一通で退職の意志を伝えられるような現代社会では、相手の表情を想像する力も育ちにくい。

 「話す力」は、家族や友人との関わりの中で磨かれてきた。

 その機会が減るほど、言葉の奥にある思いやりも失われていくのかもしれない。

人の心にしかできない支援を

雑誌で「AIが進むと消えていく職業」という特集を目にした。

 そこには運送ドライバー、小売業、Webライターなど、さまざまな職種が並び、なかには「医者」という文字まである。
 その頃は「さすがにそれ(医者)はないだろう」と思っていたが、2年前から続く自分の体調不良を思い出したとき、ふと考えが変わった。

 精密検査等をしてもどこも悪くない。
確かに症状はあるのに、検査でデータがでなかったために、治療も投薬もできないでいるのだ。

 「データがなければ何もできないなら、AIが行っても変わらない」そんな思いが胸をよぎった。
AIが医療や福祉の現場に入る日も遠くない。 だが、検査に現れない不調を感じ取るのは、やはり人の目と心だ。
 データには映らない「違和感」や「気づき」こそ、支援の原点にある。 どれほど技術が進んでも、人の感情や関係性が生み出す力には代えられない。
AIやロボットは、私たちの暮らしを確かに支えてくれる。 けれども、どこまでを任せ、どこからを人が担うのか。

 その境界を見極めるのは、やはり人の感性だと思う。
 テクノロジーと共に生きるこれからの時代に、人間らしさをどこまで守れるのか。
 便利さに慣れた今こそ、あらためて「人の温もり」に目を向けたい。

writing by ueno-y