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成年後見制度における「士業後見人」と「福祉職」の見解の違い

2026年10月14日 | column_wood

成年後見制度における「士業後見人」と「福祉職」の見解の違い
― 権利擁護と福祉の視点から考える ―

この町で馴染みのある弁護士が講師を務める研修があった。その弁護士は、成年後見人としての活動をはじめ、福祉に関わる機会も多い。しかし、私自身は、その考え方や姿勢に今ひとつ物足りなさを感じている。
その理由は、成年後見制度に携わる専門職の間で「それぞれの役割や専門性の違いが十分に認識されていないのではないか?」という懸念があるからだ。

1.士業後見人と福祉職・市民後見人の違い

まず、大前提として理解しておくべきことがある。

それは、裁判所から後見人に選任されることの多い弁護士や司法書士など、いわゆる「士業」に属する人たちと、社会福祉士や市民後見人とでは、後見活動に対する取り組み方(スタンス)にに明確な違いがあるということだ。

“看護師”と”准看護師”の資格に明確な違いがあるにもかかわらず、それに携わる者がその違いを十分に理解されていないように、成年後見に携わる人たち自身が、それぞれの専門性や役割の違いを十分に認識しないまま日々の業務を行っているとすれば、そこには大きな問題がある。私はこの点に強い懸念を抱いている。

2.「士業」とは何か

「士業」とは、名称の末尾に「士」が付く専門職の総称であり、法律・会計・不動産などの分野で、高度な専門知識を生かして業務を行う職業を指す。

主な職種には、次のようなものがある。

法律系: 弁護士・司法書士・行政書士・弁理士
会計・経営系: 公認会計士・税理士・中小企業診断士
不動産・建築系: 土地家屋調査士・不動産鑑定士
労務・社会保険系: 社会保険労務士

これらの専門職は、人々の暮らしや企業活動を支える重要な存在である。

また、「8士業」とは、一般に弁護士・司法書士・弁理士・税理士・社会保険労務士・行政書士・土地家屋調査士・海事代理士を指す。これらの職種には、一定の条件のもとで、職務上必要な戸籍謄本や住民票などを請求できる権限が認められている。

一方、「10士業」と呼ばれる場合には、一般的な分類として、8士業から海事代理士を除いた7職種に、公認会計士・中小企業診断士・不動産鑑定士を加えることがある。

これらの専門職は、許認可申請・訴訟代理・相続手続き・不動産登記など、社会のさまざまな公的手続きに関わっている。

なお、「士業」の分類や呼称には複数の考え方があり、戸籍や住民票を請求できる権限も、職種や法令上の要件によって異なる。

3.「士業」と「師業」、そして福祉の専門職

同じ「しぎょう」という読み方をする言葉に「師業」がある。

医師・薬剤師・看護師・教師・調理師・美容師など、「師」の字が付く職業である。これらは、それぞれの分野で専門的な知識や技術を身に付け、その能力を生かして人々を支える仕事だ。

ただし、資格制度や業務範囲は職種ごとに異なり、すべてが同じ仕組みで運用されているわけではない。

また、国家資格などを持ちながら、一般に「士業」とは区別される職種もある。

例えば、社会福祉士・介護福祉士・管理栄養士・栄養士などである。これらの資格は、それぞれの専門性を担保するものだが、弁護士などのいわゆる士業と同じ業務独占の仕組みを持つわけではない。資格によって、名称独占や業務独占の範囲も異なる。

重要なのは、資格の名称だけで専門性を判断するのではなく、その資格が何を専門とし、どのような役割を担うものなのかを理解することだ。

4.福祉とは、人の生活そのものに関わる仕事である

福祉の仕事は、他人の生活そのものに関わる仕事である。

介護・医療・福祉制度・財産・労働など、生活を支えるためには、実に多くの分野との連携が必要になる。それぞれの分野には専門職が存在し、専門的な知識や技術を生かして支援を行っている。

成年後見制度においても、後見人が「本人の権利を守る」という目的は共通している。しかし、本人のどのような権利や生活上の課題に着目し、何を重視して支援するかという点では、専門職によって視点が異なる。

法律や財産管理を中心に考えるのか。それとも、本人の生活状況や意思、福祉サービスの利用、地域とのつながりまで含めて考えるのか。

こうした視点の違いが、実際の後見活動に表れるのである。

5.士業後見人は、身上監護をどう捉えているのか

私が特に問題だと感じているのは、士業後見人の専門性と、福祉に対する理解との関係である。

士業後見人は、法律や財産管理に関する専門知識を生かし、本人の権利や財産を守るうえで重要な役割を果たしている。

一方で、本人の生活状況や福祉的な課題については、必ずしも同じ専門性を備えているわけではない。

ここで重要になるのが、「身上監護」という視点である。

成年後見制度における身上監護とは、本人の生活や療養看護に関する法律行為などを通じて、本人の生活を支えることを指す。実際の介護そのものを後見人が担うという意味ではない。

しかし、本人の生活を支えるためには、介護や福祉サービスの利用状況、生活環境、本人の意思などを理解し、必要に応じて関係機関と連携することが欠かせない。

私が懸念しているのは、士業後見人の中に、法律や財産管理に関する専門性があれば後見人としての役割を十分に果たせると考え、福祉的な視点の重要性を十分に認識していない人がいるのではないか?ということだ。

介護や福祉が専門外であること自体は、決して問題ではない。問題なのは、専門外であることを自覚し、必要な支援につなげる姿勢が十分に備わっているか?ということである。

6.成年後見制度は、何のためにあるのか

成年後見制度は、本人の権利・財産を守るための制度である。

財産を保全することは、もちろん重要だ。しかし、財産を守ることだけで、本人の権利や生活が十分に守られるわけではない。

本人の意思を尊重し、その人らしい生活を維持できるように支えることも、成年後見活動において重要な視点である。

成年後見制度は、介護サービスそのものを提供する制度ではない。また、後見人が本人の生活上のすべての問題を直接解決するわけでもない。

だからこそ、法律・福祉・医療・介護などの関係者が、それぞれの専門性を理解し、連携して本人を支えることが求められる。

そもそも、成年後見制度が、単なる財産管理の仕組みではなく、本人の権利擁護を目的とする制度であることを、実際に制度に携わる人たちはどこまで理解しているのだろうか? 私は、この点に大きな疑問を感じている。

本人の権利を守るとは、財産を守ることだけではない。本人の意思と生活を尊重し、その人らしく生きることを支えることでもある。

その事を、改めて問い直してほしいと思う。