年齢とともに衰える力といえば、「身体」や「脳」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
実はもう一つ。「心」もまた、年齢を重ねる中で変化していくのです。
けれど、「心が衰える」とは、どういうことなのでしょうか。
40年にわたって相談支援の現場で多くの高齢者と向き合ってきたました。

「心」は本当に衰えるの?

「実は、心そのものは年齢とは関係ありません」

かつては「頑固じいさん」と呼ばれるような、気力にあふれた高齢者がたくさんいました。ところが最近は「子どもに迷惑をかけたくない」と遠慮しがちな方が増え、物静かな高齢者が多くなったと言います。

かつて東京で地域包括支援センターでの相談支援を行っていた頃、都心のベットタウンだった地域では、高齢の親を呼び寄せる形で高齢者が増加しました。住み慣れた土地を離れて新たな地域に移ってきた高齢者の多くが「寂しい」「早く死にたい」との声を多く聞きました。このように、生きる意欲を失った状態こそが、「心が衰えた」といえるのかもしれません。

「心」を元気に保つコツ

では、「心を鍛える」ということはできるのでしょうか。その秘訣は「欲張りになること」
「美味しいものが食べたい」「温泉に行きたい」など、周囲に止められても「行くんだ!」「やるんだ!」と言えるくらいの気持ちこそが、心のエネルギーになります。

実際に、こんなエピソードもありました。
ある90代の女性が大腿骨を骨折し、手術を受けました。家族はリハビリを希望しましたが、女性本人は「なんのために歩かなきゃいけないの?」とリハビリを拒否したのです。
痛みを乗り越えてまで、もう一度歩きたい──そんな「目的」が見いだせなければ、人は本気で頑張れないのです。

「人は、自分が本当に困った時にしか本気になれません。だからこそ、私たち支援者は“やる気を支える”ことが何よりも大事なのです」

やる気を支える会話力、気持ちを引き出すために必要なのは「会話力」です。

「相手を変えたいなら、ドッジボールのように言葉をぶつけるのではなく、キャッチボールのようにやり取りすることが大切です」

いくら正論でも、相手に届かなければ意味がありません。
その人の気持ちに寄り添い、言葉を受け止め、やる気の芽をそっと探し出す。それは簡単なことではありませんが、プロの相談員はその難しさをものともせず、数多くの高齢者の心を動かしてきました。

家族にできることとは何か? 家族が高齢者のやる気を引き出すにはどうすればよいのでしょうか。
「本人の言葉をくみ取り、一緒にやってみることが何より大切」です。たとえば「お墓参りしていないな」「温泉に行きたいな」といったひと言に「じゃあ行こうか」と応じてみる。膝が痛いなら「病院で相談してみようか」と提案する。──歩きたくない高齢者でも、病院には自ら行けるんですけどね(笑)。

最近では、家族の間でも「一緒にやってみよう」という言葉をあまり聞かなくなりました。
けれど、本人の小さな希望に寄り添い、行動に移すことが、心の衰えを防ぐ第一歩になるのです。

心を元気に保つには、ほんの少しの会話と共感、そして行動。

年齢に負けず、「やりたい」という気持ちを大切にし、家族がその背中をそっと押してあげられたなら ── 高齢者の心は、きっともっと自由に、元気に動き出すはずです。

writing By モッカ